パノラマ寓話

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雪についての習作 2

   

ひらひらと舞う雪を、綺麗だ、と、思ったが、そんな自分に困惑する。
これは雪を真似た死神だ。
僕の目の前で、彼女が死んでいる。
その上に、雪が音もなく降り積もり、彼女の輪郭を隠してしまっている。
僕は大きな木の下でその様を見つめていた。
徐々にその姿を消そうとしている黄土色に枯れ果てた芝生と、その上にはてなく広がる灰色の空。
針葉樹のくすんだ緑が妙に鮮やかで気持ち悪い。

彼女は、僕に隠れて他の男と会っていた。その人とこそ結ばれたいのだと、そう、僕に言った。

そこから先はわかりやすい、陳腐な筋書き通りだ。
僕は彼女を殺した。簡単だった。どれだけ抵抗されたって、力を緩めることなく、
彼女の首を絞め続けたらよかった。
彼女が死んでも怖くなかった。それが現実になったらどうしようなんて、少しも怯まなかった。
別の男の方がいいなんて言うから、どうでも良くなってしまったのか。
僕が好きだったのはぼくのことを愛してくれていた彼女であって、彼女自身じゃなかったのか。

話し合う時間は短かったけれど、彼女を待つ時間は長かった。
一時間? 二時間? それとももっとか。よくわからない。
降る雪が世界を真っ白に染め上げていくのを見つめていたら、僕の心も真っ白になってしまったんだ。
なんとなく気付いていた彼女の心変わりを許そうという気持ち。好きだからこそ諦めようという気持ち。
僕は僕のためだけに、この恋を弔おうという気持ち。全部、全部、真っ白になって。
そして彼女の命も真っ白に燃え尽きてしまった。

雪が降っていた。
雪が降っていたから、僕は彼女を殺した。

 - novel