パノラマ寓話

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春待ち

   

春の始まりの日
まどろみながら沈む夕陽を口の中で転がすように
君の耳元に唇を寄せる

灼けるような寂しさに穴を開けたくて
君の影をそっと踏んだ
日が延びれば影も伸びる
僕の心にも届いてしまう

騒ぐ風に振り返る時は逢魔時
蜜で満たされゆく世界を見た
闇に溺れる手前 一瞬だけ喘ぐように
遠い空だけがぼんやりと明るくて
死人のようにつつましく去った冬を思い
曖昧に 空気を舐めるように訪れる春にぞっとする

床に投げ出された君の白い足首が冷たくて
むせび泣くような衝動が僕の中で震えている
この掌はいつかきっと 君を正しい形で壊してしまうだろう
けれど今はただ その予感を口に含みうつむいていたい

そうしてただ 君に触れていたい

 - poem