パノラマ寓話

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春を往く

   

動脈みたいに空を這う木の枝に
花という名の血が通う
生ぬるく吹きすさぶ風に裏返るビニール傘
記憶さえ飛んでいってしまいそうな夜

歩き出した足は
目的もないまま ただ止まらずに

生まれてから今まで
この口は何度 「寂しい」と呟いただろう
それは鋭利なナイフで
声が育んだナイーヴ
口の中は血だらけだ

家族がいて 友達がいて
だけど絶対に埋まらない孤独が
この魂の中心を貫いている

名前を呼んだ 声にならない声で
まだ知らぬ君の名を
春の嵐の中 叫んだ
夢みているんだ
君がこの孤独を引き抜いて 微笑んでくれる世界

自分勝手に巡り来る春が乱暴に
ひとつずつ落としていく 標
この手足も伸びて
この心も世界の眩しさを知って
気付きだす 君の本当の姿
築いてく 君になるための強さ

南風に混じり吹く北風の中
壊れた傘を放り投げて
抱え続けた幻も捨てて
歩く足の行き先が今 わかったんだ

「やあ やっと逢えたね」

自分を救うのは自分自身だ
孤独の芯にこそ答えは宿る
捜し求めていた君を抱きしめながら僕は
これからの日々とよろこびの歌を口ずさんだ

 - poem