パノラマ寓話

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逃避行

   

誘拐よりも
僕は逃避行の方が好きです
だから次のバスに乗って
どこか遠くへ行きましょう

バス停の看板から
ビルの外壁から
空から
ひとつずつ 色を削り取っていく北風
低い位置にいる太陽の光は強く
まっすぐに 貫くように 届く

それは汚れなく透明で 鉱石を思わせる
非常に具合のいい硬さをした 清潔な景色です

悲しいかな 僕たちはそこに届かないけれど
あの光ほどにまっすぐ強く死に向かってゆく
汚れながら 荒みながら
古びて壊れ 泥を啜り死に辿り着く
掌の中の美しいものほど
今吹き付ける風のように乱暴な時の流れに削られ 喪われてゆく

腕時計は今朝 時間を合わせてきました
あと3分でバスが来ます
紅白だんだら模様に予感を乗せて

それは希望でしょうか
それとも絶望でしょうか
わからないからせめて
こんな清い光の注ぐ日に
僕は君と 最果てへ行く約束をしたかったのです

 - poem