パノラマ寓話

恣意セシル 文藝活動報告サイト

凍える春

   

春はいつ来るんだろう
扉の壊れた百葉箱の中を覗き込む
湿度32% 気温6℃

冷たくくすんだ青空が広がっている
給水塔によじ登って街を見下ろした
灰色のビル、ビル、ビル
その隙間から ちらり 見える車や家の色彩
ぐちゃぐちゃ モザイクを散らかしたみたいだ

蓋をするみたいにのしかかる空の青が冷たすぎて
まるで世界は冷凍されているよう
吹きつける風は北風ばかりだし
向こうからやって来る雲も黒ずんでいる

届いたら 影が射すね
ますます寒くかじかんで
何もかもが死んじゃいそうだ

給水塔から飛び降りて
もう一度 百葉箱の中を確かめる
湿度34% 気温6℃

ねぇ 春の兆しが見つからないよ

あの空の向こうにあったりするんだろうか
手を伸ばしたらぱりんと音を立てて
割れ目から淡いピンクや 柔らかな黄色が溢れ
花の香りをした春一番が吹きこむんだろうか

手は届くはずもなく
白い溜息を吐いて
今日も僕は 春を待つ

 - poem